「アルさまは、お忙しそうですね」

「ええ。礼のメイドの行方は未だにつかめず、どこからの命令で動いていたかも掴めないままですから」

「そうですか…」


セシリア。
でも彼女は、セシリアでもなかったのだ。
いったい、本当はなんという人だったのだろう。
なんの目的で。
誰の命令でこんなことを。

とてもリスクがあったはずだ。
身分を偽るなんて、ばれてはただでは済まない。


「私に、にこやかに話しかけてくれていたのは、すべて演技だったのかしら」

「そういう事を、なんとも思わずやってのけてしまえる者は少なくないでしょう。こういう場所では特に」


アルさまがよく口にされる、アルさまのいる世界では。
私はまだそのすべてを知れていないのだろうか。