冷酷な王さまは愛し方を知らない



私の荷物は、リュック一つ分程度。
ここに来るときに着てきた自分の服に着替える。

やはり、この庶民の服がしっくりくるのだと苦笑する。
どれ程着飾っていいものを身につけても、やはり私は庶民で。
いくら背伸びをしたところで、結局そこからは抜け出せないのだと知る。



そっと部屋の戸を開ける。
誰もいないのは、キースさんの優しさだろうか。
見張りの人間を置いていないなんて…。



私は辺りを気にしながら進む。
そしてたどり着いたのはアルさまの執務室の前。

ノックをする。



「誰だ」



中からアルさまの声が聞こえた。
ホッと息をつく。
ここにいてくださった…。

ここにいなければ、もうお会いできないと思っていた。


「…アルさま、リズです。あの」

「なぜここにいる。部屋で待機しているのではなかったのか」

「…はい。ですが、一度だけアルさまにお会いしたくて」

「お前の顔を見たくない。そう言わなかったか」



最後の希望を託してここに来た。
でも、アルさまは私に会ってくれる気はないようだった。

私に身勝手さに呆れ、もう、私への気持ちなどなくなってしまったのかもしれない。