冷酷な王さまは愛し方を知らない



前国王が亡くなり、慌ただしいままに王位を継承されたのが一年ほど前だ。
前国王の死因は公表されなかったが、あまりに突然だった。



「あまり公の場に立たれないものね」

「ええ」



だから、きっと国民皆、国王の事をあまり知らない。
冷酷非道の王さま。
そんな悪名のような噂くらいにしか。

本当はどんなお方なんだろう。



その時、音楽が終わる。
なんとなしにワインの入ったグラスを持ったまま振り返る。



「きゃっ!?」



振り向きざまに人にぶつかり持っていたワインが散る。
ワインは相手の服に無残にもかかり、赤いシミを作る。

サーっと血の気が引く。



「も、申し訳ありません‼︎あ、あ、あの!」



ど、どうしましょう!
きっとこの服も装飾ものも私なんかが手が届かない高級ものだろう。
私は慌ててハンカチを取り出してその服を押さえるように拭いた。



「最悪だ」




聞こえて来た不機嫌そうな声。