冷酷な王さまは愛し方を知らない



「すみません…、私…」



我に返ると、とんでもないことをしてしまったと思った。
相手は一国の王さまで。
顔見知りではあるとはいえ、私とアルさまとではとても遠い場所にいる。



「汚れるだろう」



アルさまが発したのは、そんな言葉。
私はお風呂をお借りし身体の汚れを洗い流した後、服を借りて着がえていた。
すっかりそんなことを気にもせず抱きついてしまったことに気づく。



「すみません…。弁償を」

「そうじゃない。お前がだ…」

「私は…」



ふと見ると、アルさまの身体は血で汚れていた。
戻られて真っ直ぐここに来てくださったのだろう。

これは、ご自身の血ではないのだろうか…。
抱きついたけれど、どこか痛そうな感じはなかった。
という事は、この血は…。

一度ギュッと瞼を閉じ深呼吸をする。



「アルさま、ご無事で安心いたしました。助けていただき、本当に感謝しています」



私はそう言って笑って見せた。