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坂野くん

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次の日、けいちゃんは、朝一で課長の所に来た。

2人でしばらく会議室に篭ると、出てきた課長が言った。

「席を変えようと思う。
大野くんは、田口係長の仕事を手伝って
もらうから、田口係長の隣へ。
で、佐藤、じゃなくて、河谷さんが空いた席に
1つずれる。
最後に、坂野!
お前が、今、河谷さんがいる席に行ってくれ。
坂野はこの先、河谷さんの下で働いて
もらうから。」

「はい。」

私たちは、慌ただしく引っ越しを始めた。

私が使うのは、けいちゃんの席。

ふふっ
なんだか嬉しい。

「遥さん、よろしくお願いしますね。」

隣に来た坂野くんがにっこり笑う。

「うん。よろしくね。
ってか、遥さん?」

「ダメですか?
もう佐藤さんじゃないし、河谷さんって
言うと、どうしても河谷主任の顔が浮かん
じゃうから、遥さんが1番言い易いかな…と
思ったんですけど。」

「ううん、いいよ。
坂野くんなら、仲良く仕事できそう。」

私は、けいちゃんのお陰で平穏な日常を取り戻した…と思ってた。



12時 社員食堂。

「けいちゃん、あの後すぐに席変わったよ。
ねぇ、課長になんて言ったの?」

私は日替わりランチの焼き鯖を頬張りながら、尋ねる。

「別に。
あいつは遥の元カレだから、すぐに席を
変えて欲しいって、お願いしただけだよ。」

けいちゃんは、平然とした顔で味噌汁を飲む。

「えぇ!?
ほんとにそれだけで、あんな簡単に席を
変えてくれたの?」

「まぁ、ちょっと、脅したけど。」

「は?
脅したって、どういう事?」

けいちゃんの目が泳いだ。

「けいちゃん?」

私がけいちゃんをじっと見つめると、けいちゃんは諦めたように口を開いた。

「遥を元カレの横に座らせておくなら、今すぐ
会社を辞めさせますって…」

「はぁ!?」

私は呆れて、物も言えない。
けいちゃんは、言ったら、気が楽になったのか、おいしそうに焼き鯖を食べている。

「けいちゃんが、
『遥はせっかく仕事できるのに、今、
やめるのはもったいない』
って言うから、私、仕事してるんだよね?」

「あぁ。」

「で、なんで、けいちゃんが、私の進退を
チラつかせるのかな?」

「………
一番確実に大野を遠ざけられるから?」

「もう!
………でも、ありがと。
お陰で仕事がやり易くなったよ。」

私がけいちゃんを見て微笑むと、けいちゃんも嬉しそうに笑った。