最後の営業所を出ると、私はけいちゃんにメールを送った。

『今日の作業は終了しました。
昨日伺った○○営業所で不具合が発生して
いるようなので、これから行ってきます。』

私は、電車を乗り継ぎ、18時45分に連絡を受けた営業所に着いた。

「こんにちは〜。
先程、ご連絡いただいた佐藤です。」

業務終了時刻を過ぎて、薄暗い事務所の中に入ると、田中さんが1人仕事をしていた。

「こんにちは。
わざわざすみません。」

立ち上がって出迎えてくれる。

「実は、あの後、佐藤さんに言われた事を
もう一度色々試してみたら、動いたんです。
先程、連絡したんですが、佐藤さんはもう
出られた後で、繋がらなくて、申し訳
ありません。」

ほっ。

「それは良かったです。
では、私はこれで失礼します。」

私が帰ろうとすると、田中さんに呼び止められた。

「いえいえ、せっかくご足労いただいたのに
そのままお帰りいただくのは申し訳
ありません。
お食事だけでもご馳走させてください。」

田中さんが近づいてきた。

「いえ、お気になさらず。
これも私の仕事ですから。
これからも何かありましたら、遠慮なく
おっしゃってくださいね。」

そう返すと、

「また連絡が行き違いになるといけません
から、佐藤さんの連絡先を教えていただけ
ませんか?」

田中さんは、自分の携帯を出して言った。

「申し訳ありません。
実は社内規定で、お客様に携帯番号などの
連絡先をお教えできない規則になってるん
ですよ。
もし、何かございましたら、弊社にご連絡
いただければ、社内の者が対応させていただき
ますので、お気軽にご連絡ください。」

もちろん、そんな規定はない。
だけど、今までもこういう困ったお客様はこの手で逃げてきたし、大抵の場合はそれ以上、突っ込んでくる事はなかった。

「そうですか。
残念です。
でも、お食事はご馳走させてください。
このままでは、私の気が収まりませんから。」

「いえいえ。
本当にお気持ちだけで。
ありがとうございます。
では、失礼いたします。」

これ以上、ここにいるのは危険だと判断した私は、無理矢理話を終わらせて、帰ろうとした。

けれど…。

いつのまにか、私の横に立つ田中さんが、ドアを抑えて、帰らせてくれない。

「あの…
田中さん?
本当にお気持ちだけで結構ですから。
社内にまだ業務も残っておりますので、
帰らなければなりませんし。」

なんとか穏便にドアを開けてもらおうと、笑顔で話しかける。