20時。

「遥、帰るぞ。」

「うん。着替えてくるから、待ってて。」

今日は、ちょっと早いので、フロアには、結構な数の人が残っている。

私が更衣室に入ると、声が聞こえる。

「河谷」

「ん?」

「お前、遥ちゃん、捕まえたのか?」

「ああ。」

「お前が手を出すのは、ずるいだろ!?」

「何で?」

「お前なら、他にもいくらだっているじゃん。
せっかく、遥ちゃん、フリーになったのに、
俺らにもちょっとは、夢見させろよ。」

「お前らが狙ってるから、俺が焦ったんだろ?
あいつ、別れた途端に次から次へと告白
されやがって。」

「え? そうなの?」

「そうだよ。」

「でも、お前を選ぶ辺り、遥ちゃんも普通の子
だったんたな。」

「ぷっ
普通なわけ、あるか。
お前、俺がどれだけ苦労したか、知らない
から、そんな事言えるんだよ。」

「そうなのか?」

「あいつには、ルックスは全く武器にならない
からな。
逆に言えば、どんなに不細工でも、中身が
気に入ったらあいつはそっちに行くから大変
なんだよ。」

「じゃあ、俺にもチャンスが…」

「ねぇよ。
遥は俺が嫁にもらうからな。」

「本気か?」

「ああ。」

「そうかぁ。
まぁ、がんばれよ。」

どうしよう。
めっちゃ嬉しいかも。
顔がニヤける。
更衣室から出られない。

すると、

「遥、帰るぞ! 聞き耳立ててないで、
さっさと出てこい。」

と、けいちゃんが声を張り上げた。

私は更衣室を後にした。

「お待たせしました…。」

私の顔を見て、けいちゃんは、にっと笑う。

「帰るぞ。」

そう言って、けいちゃんが私の手を取る。
私たちは、仲良く会社を後にした。

「ふふっ。
けいちゃん、大好きだよ。」

なんだか、突然言いたくなって、そのまま口にした。

「知ってるよ。」

けいちゃんは、繋いだ手をぎゅっと握ってくれた。
私はけいちゃんにくっついて歩いた。

幸せ。