金曜 19時。

私たちは1階エレベーターホールで待ち合わせた。

有村くんは、品川駅近くのスペインバルのお店を予約してくれていた。

会社の人に会いやすい田町を避けてくれたのは、有村くんの優しさだろう。


「乾杯」

私たちは、ビールで乾杯し、料理をつまむ。

初めは、仕事の事や芸能ニュースなど、取り留めのない話をしていたんだけど、

「噂で聞いたんだけど…」

と有村くんが切り出す。

「大野と別れたんだって?」

「うん。
そんなに噂、広がってるの?」

「まぁ、佐藤は有名人だし。」

「え?
なんで?
私、なんかやらかした?」

「お前、気づいてないの?」

「何が?」

「あー、
だったら、知らないままでいいよ。」

「えー?
気になるじゃん。」

「………
俺は言わない。
知りたかったら、他の奴に聞いて。」

「???」

こうなったら、有村くんはテコでも言わないだろう。

「佐藤は、もう、吹っ切れたのか?」

「うん。
もう大丈夫。
心配してくれてありがとう。」

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ………

携帯がなった。

「ごめん、ちょっといい?」

と言って、席を外し、電話に出た。

「はい。」

『遥? 今、どこ?』

「品川のスペインバル」

『分かった。じゃあな。』

「はい」