そこへ、綺麗なお姉さんが歩いて来る。

主任が手を挙げると、その向かいの席に座った。

「亜希…」

高野さんが、掠れた声で呼んだ。

亜希さんって、さっき会社で話してた元カノさん?

「あら、勇太、何してるの?」

「………」

「今日は随分、かわいい子連れてるのね。」

「………」

「佐藤、紹介するよ。」

主任が口を開いた。

「俺たちの同期で秘書課の伊東亜希(いとう
あき)さん。
高野の現在進行形の彼女。」

「え?
別れたんじゃ!?」

私が驚いて声を上げると、

「え!?
私たち、いつの間に別れたの?
私が別れ話する度に、泣いて縋(すが)って
来たのに、不思議ね。
だったら、今度こそ、別れてあげるわ。
さようなら。」

「亜希!
違うんだ。
亜希!」

亜希さんは、立ち上がって、さっさと店を出て行ってしまった。

「遥、帰るぞ。」

テーブルに一万円札を置いた主任に腕を取って立たされると、そのまま高野さんを置いて私たちも店を出た。

主任は、少し、怒っているように見えた。

私は黙って、手を引かれて歩いた。