かなたが森での生活に慣れてきた頃には、ウォルと出会ってから20日が経過していた。

ブラッディムーンまでは後一ヶ月と10日しかない。

しかし、狼であるウォルの優しさに触れたかなたは、本気でこのままの生活も悪くないと思い始めていた。

今日は望月(満月)。

夕暮れ時、かなたは誘われるように森の湖に来ていた。薄紫の空が段々と黒に染まっていく。

雲に覆われた月が、東の空に見え隠れし始めた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

虫の鳴き声が聞こえる。

そんな中、かなたに近づく足音が大きくなっていった。

「ウォル?」

ウォルは少し離れた所から、湖の畔に座り、両足浸していたかなたを見つめていた。

雲の隙間から大きくて丸い銀色の月が顔を覗かせ、辺りを照らした。

望月がその全貌を見せた刹那、かなたは、ウォルが人間の男性になっていくのを呆然と見つめていた。