コンコン、と。部屋のドアがノックされる。
わたしが返事するよりも早く、ドアが開く。
「丸聞こえ」
「……おねぇ、ぢゃん……」
「青春だねぇ。長瀬くんに嫉妬しちゃいそうだわ」
お姉ちゃんはくつくつと笑いながら部屋に踏み入り、わたしが蹲るベッドにトスンと腰掛ける。
「わたし、わたし、最低。あんなの、絶対、嫌われ、だから、よかったんだよね。わたしが、わたし……」
「ん。よしよし、だいじょうぶ、大丈夫。長瀬くんはあんなので、あかねのこと嫌いになんか、ならないよ」
「違っ、だから、それじゃ、わたし、長瀬くんは、ぅぁ、には、ぜったい」
喉から零れる震えた言葉は、あまりにも無様で、情けなく。
お姉ちゃんはわたしの肩を抱きながら、やさしく頭を撫でてくれる。
「そういう風に、悩んで、間違えて、傷ついて、傷づけて。いいの。それを辛いって、苦しいって想うことがちゃんと出来るなら、本当はどうしたかったのか、少しずつ、わかるでしょう?」
「わたし、わたし。わた、わたしは、わたし……たし……っ」
「観に行ってあげなよ、サッカーの試合。それで、仲直りしたいなら、謝ることだってできるさ」
わたしは、こんなにも、こんなにも、身勝手で、わがままなのに。
それでも、本当は、長瀬くんと。
もうちょっとだけ、仲良くなりたいって、思っているんだ。
今までずっと、遠ざけてきた。誰とも仲良くなりたいなんて、思わなかった。
けれどもそれは本当は、誰かにわかってほしかっただけで。
お姉ちゃんみたいに、『わたしを好きって言ってくれる』誰かとだけ、仲良くしたいだなんてそんな身勝手な想いで。
それを認めるのも、誰かに伝えるのも、怖くて、嫌で、耐えられなくて。そんなの。
「こんなわたし、そんなの、嫌われて当然なんだもん……っ! やだ、やだ、嫌われるのは、」
嫌だ。
「うん、うん。だいじょぶ、だいじょぶだよ。あかねは、お姉ちゃんの自慢の妹なんだから」
真っ暗な部屋の中で、いつか幼い日の思い出のように、お姉ちゃんの胸の中で震えるわたしは。
答えなんて、正解なんて、まだまだなんにも解らない、どうしようもない子供のままで。
だから今はまだ、こうやって。
お姉ちゃんの傍で、甘えていても、いいですか?
神様も、お月様も、そんなわたしにはまるで無関心かのように静かに黙ったままだから。
だからせめて、いつか大人になったわたしが、今日のことを思い出したときに。
お姉ちゃんと一緒に、笑っていられるような、そんな大人になれますようにって、お願いすることにした。
おわり

