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学校なんか面倒だ。そう思っていた。
友達なんて煩わしい。そう思っていた。
1人でいられれば気が楽だ。そう思っていた。
だからその気持ちは、あの日を境に風船のように大きく膨らんで、わたしに圧し掛かった。
長瀬くんに本を投げつけて、泣きながら教室を飛び出したあの日。
長瀬くんに手を引かれながら、渋々教室に戻ったわたしを見るクラスメイト達の視線は、それはそれは、冷ややかなものだった。とくに、女の子たちからの。それはそうだろう。人気者の長瀬くんにいきなり怪我をさせて、学校をサボるように飛び出し、怪我をさせた張本人に手を引かれながら戻ってきたなんて、事情もへったくれもなく、不気味以外の何でもない状況に思える。
彼らからすれば、あの日の冷やかしなんて瑣末な出来事、ちょっとしたレクリエーションイベント。
わたしがそれをどんな風に感じていたかなんて関係なしに、ただ子犬とじゃれるように戯れていただけのつもりだったのに。突然暴れだしたわたしと怪我をした長瀬くんに、それは興をそがれたであろうことは想像に易い。
だから、あの日からわたしは、クラスメイトから敬遠される扱いとなった。
長瀬くんは、必死でわたしを庇ってくれたり、弁明してくれたりしたけれど。
彼らにとってもはや、それは、『どうでもいい』ことでしかなかった。
もともとわたしは、クラスに馴染もうなんて気持ちがこれっぽっちもなかったし、高校生というコミュニティにとって、協調性の環から外れようという思惑は害悪にしかなりえない。つまるところ、東あかねという生徒はこのクラスにとって、関わったら面倒くさいことになるという共通認識の下、それによる円滑なコミュニケーションが形成されていったに過ぎない。
あぁ、やっと静かになった。 なんて、思ったものだ。
クラスに、わたしと目を合わせようなんて子はほとんど居なくなった。
長瀬くんと、綾川さん以外は。
綾川さんはあの日からも、時々ぱっちりと目が合うときがある。綾川さんは優しげに微笑んでくれる。けれどわたしは小さく会釈を返すだけで、微笑み返すなんて出来ないでいる。
長瀬くんは空気を読まずに挨拶したり話しかけたりしてくれたけれど、わたしはこれ以上、長瀬くんに迷惑をかけたくなくて。
だから彼のことを、徹底的に無視したりした。
そのたびに彼は、とても寂しそうに表情を落とし、それから誰かに呼ばれて、わたしから離れていく。

