お姉ちゃん




今夜の献立は、余っていたひき肉で作ったハンバーグ。大根おろしを添えて、お醤油を少したらして食べるとおいしい。


一緒に作ったなめことネギのお味噌汁の味噌は赤。わたしは白味噌で作る甘いお味噌汁のほうが好きだけど、お姉ちゃんは赤味噌で作るちょっと渋い味のほうが好きみたい。大人になるって、そういうこと? たぶん、違うだろうけれど。


ハンバーグをお箸で摘んで一口食べて、お姉ちゃんは嬉しそうに頬をゆるゆると緩ませた。


「んーおいしっ。結婚しようよ、あかね」


「やだよ。お姉ちゃんと結婚する人なんて、絶対苦労するもの」


「えー。なんだよぅ、あかねはお姉ちゃんのこと嫌いなのかー!」


そんなわけないよ、まったくもう。


小さく溜息を吐いてから、お味噌汁を一口すする。わたしは白味噌のほうが好きだけど、赤味噌のお味噌汁が嫌いなわけじゃない。もしかしたら本当は、どっちも好き。今日もおいしく作れたお味噌汁に、うん、とひとつ頷いて満足してみる。


「お姉ちゃんも、早く彼氏とか作ってさ。もっと、しっかりしてよ」


「おやや。彼氏持ちのあかねさんの言葉は心にずしりと響きますねぇ」


「長瀬くんはそんなんじゃないってば!」


べしんとテーブルを叩いて抗議するわたしに目もくれず、るんるんとご機嫌に鼻歌を歌いながら箸を動かし続けるお姉ちゃん。


わかっているのか、理解(わか)っていないのか、お姉ちゃんはずっとそんなアテの外れた見解を解かないまま、わたしをずっとからかい続けている。


「素直になんなよ。女の子は素直なほうが、かわいいよ」


「……お姉ちゃんに言われても納得いかない」


「お姉ちゃんはいいの。女の子なんて歳じゃないから、もうね」


お姉ちゃんは、ずるい。


こんなにわたしと違って、こんなにわたしより綺麗で、こんなにわたしより子供っぽいのに。


こんなにもわたしのことを理解っていて、こんなにもわたしより魅力的で、こんなにもわたしよりずっと大人だから。


「わたしだって、お姉ちゃんみたいになりたいよ」


「ふぅん。どうして?」


「お姉ちゃんみたいに、強くて、かっこよくて、自分を信じていて。そんな風に、振舞えたならきっと、学校だって、みんなと、だって」


「仲良くしたいって、思う?」


「……そんな風に思う資格なんて、ないんだって思うから。わたしは」


「あかねはお子様だねぇ」


そう言って静かに笑ってから、お姉ちゃんはお茶を啜る。


わたしは、お姉ちゃんに自分の気持ちが全部見透かされているような気がして、悔しいような、それでいて安心するような、何とも歪な気持ちになる。


「わたしも大人になれば、お姉ちゃんみたいになれるかな?」


「……そんないいもんじゃないよ、大人になる、なんてね。あかねは、あかねのまま大人になるしかない。歳をとれば、誰かと出会えば、なにかきっかけがあれば、今とは違う自分になれるだなんて、そんな風に夢を見ながら、ずっと変わらないまま、大人になっていくものだよ。誰だってさ」