「わー! お姉ちゃん!」
お姉ちゃんの背中をポカポカ叩くと、お姉ちゃんは首だけで振り向いてわたしを見下ろしながら、悪戯っぽい笑顔でにししっと歯を見せた。
わたしはムッと頬のあたりがじわじわとして、勢いに任せて思いっきりジャンプ。お姉ちゃんの手から無理やりスマホを奪った。お姉ちゃんはほぅと息をつき、口元を手で隠して「ごゆっくりー」なんて言いながら、部屋を出て行ってしまった。
「ほん、とにもう。……あ、と。長瀬くん? お姉ちゃんの言うこと、あんまり真に受けちゃダメだからね」
電話口の向こうで長瀬くんは、何だかぼんやりとした声色で、あぁ、とか、うん、とか返事した。
それを聞いて、わたしまで気まずい気分になる。さっきじわじわした頬が、今度はひりひりとちょっぴり熱い。
「えと、それじゃ、またねっ」
わたしはそんな空気から逃げるように通話終了のボタンを押してから、その場にぱたりと座り込んで天井を見上げた。まだちりちりと熱っぽい頬のあたに触れながら、漏れ出た溜息が妙に胸に心地よいことにちょっとだけ驚く。
「なんなの、」
もう、こんな風に、思うくらいなのならば。
いつまでも逃げずにいればいいのになんて、思うことはあっても。
そんな風に割り切れるほどわたしはたぶん、まだ。
大人になれてなんか、いないんだ。

