「ぱそこん壊れた」


えっ! 慌てて身を捻り、ベランダ伝いで隣に繋がるお姉ちゃんの部屋の中を覗き込む。


お姉ちゃんは、執筆が思うようにいかないときに物に当り散らすとっても悪い癖がある。そのたびに本棚が倒れたり、ベッドがひっくり返ったりするのだけれど、はたして今回はひっくり返ったデスクの下で、お姉ちゃんのノートパソコンが見るも無残な姿となっていた。


「――な、にやってるのよお姉ちゃん!」


「へへ」


「誤魔化さらいでかぁ! 勢いでやっていいこととダメなことがあるでしょ、大人として!」


「反省はしていない。だが後悔はしている」


「救いようがないよっ! どう、するのこれ……」


「あはは。まぁ、やっちゃったものはしかたないよねぇ」


あっけらかんと笑うお姉ちゃんを尻目に、わたしはがっくりと肩を落とした。





「あ、もしもし。長瀬くん、ごめんね急に。うん、えっとさ。……長瀬くんパソコンとかって、詳しい?」


電話の向こう口で長瀬くんが、呆けた声で首を捻る。ようなニュアンス。


あたしの手元には、折りたたみ部分から曲がってはいけない方向にぽっきりと折れたノートパソコン。試しに電源スイッチを押してみると、ハードディスクがカリカリと静かな駆動音を立て始めた。もしかして大丈夫? だなんて思ったのもつかの間、よく見るとモニターの液晶に大きなヒビが入り、画面は真っ白に虚しく光るだけだった。


「お姉ちゃんがね、仕事で使うパソコン、壊しちゃって。うん、そう。大変、すっごく。なのに、当の本人はさ」


「あかねぇ、お姉ちゃんおなかすいたー。片付けとかあとにしようよー」


と、微塵の危機感もなく、ベッドの上に腰掛けて脚をぱたぱたさせる。


思わず溜息をつく。


「え、うん。だいじょうぶ。ありがと、長瀬くん。……うん、そうだよね、ごめんね」
 

長瀬くんも、そんなにパソコンに詳しくはないらしく、そうでなくても実際に見てみないとなんとも言えないらしい。


何故か申し訳無さそうに謝る長瀬くんに、とんでもないよってこちらも謝る。ごめんね、ごめんね、とお互いキャッチボールみたいに謝りあって、そんな不毛なやり取りを見かねたようにお姉ちゃんが、わたしの手からひょいとスマホを奪った。


「はろー、長瀬くん。元気にしてるかぃ?」


「ちょっとお姉ちゃん!」


立ち姿で話すお姉ちゃんの手元には、わたしが背伸びしても手が届かない。奪われたスマホを奪い返せず、ぴょこぴょこと跳ねるわたしを弄ぶようにお姉ちゃんはその場でくるりと踊るように身を翻す。ほのかに赤く染まったお姉ちゃんの長い髪が鼻先をすんと掠めると、シャンプーと煙草の混じったような匂いがした。


「たまには遊びにおいでよ。え? うんうん、大丈夫。言ってくれればちゃあんとふたりっきりにしてあげるから」