「お姉ちゃん、違うから!」


「お、お姉ちゃん?」


「えーと、きみ。誰くんだっけ?」


「は、はい! 長瀬です!」


「ん。そか、長瀬くん」


「はい!」


「妹をよろしくね?」


「お姉ちゃん人の話を聞け!」


「は、はい! よろしくおねがいします!」


「長瀬くんは少し黙ってて!」


お姉ちゃんはけらけらと愉快気に笑いながら、部屋の奥へと引っ込んだ。


道端に取り残されたわたしと長瀬くんは、しばらくお互い何も言えずに黙り込み。


風で草木が揺れる音が妙に騒がしい気がして、もうすぐ秋なんだなぁってふと思った。並木の枝葉は紅葉に染まり、スズムシの鳴き声はどう耳を澄ませてもチンチロリンとは聞こえないが、隣の家の栗の木が実るのを心待ちにしながら、早くこの気まずい時間が過ぎ去って欲しいと願い続けた。


長瀬くんがふいに、わたしの左手をきゅっと握った。


わたしはわけもわからず長瀬くんの顔を見ると、顔を真っ赤にする長瀬くんの瞳の中には、同じように顔を赤く染めるわたしの顔が映っていた。
 

握ったその手を優しく引きながら、長瀬くんはわたしと一緒に歩き出そうとしている。


学校の方角からは、1時間目の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いていた。