嘘をついた。 俺に好きな奴はいた。 だがコイツには、コイツにだけはそれを言えなかった。 言えるはずがなかった。 小学生のころ、古く遠い記憶の、それを未だにどっかで引っかけてある、俺の未練ったらしい心の残留。 「――いって!」 「あー!テル、わりーっ!」 香田の放ったスーパーボールが机の角に当たり、軌道を狂わせ俺の左頬にボカッとジャストミートした。 その痛みはいつかの、ちょうど頭をかすめていたしょうもない思い出を、よけいに彩らせた。