「壷林の隣だな」

先輩と思われる女子から逃げ回って遅刻した俺は、先生が指差す席を見る。


「––––––––––––!!!」

隣の席に座っていたのは、あの子だった。

壷林…さんって言うのか。

俺は冒頭で《壷林さんの事を好きになる》的な事を言っていたが、一目惚れをした訳ではない。

恋をする運命…
…〝直感〟?

まぁなんでもいいだろう。

横目で壷林さんを見る。

まずは、友達になれるかな…「河野!!!」


「…はい???」

「自己紹介だって何回言わせるんだ!お前も問題児行きか〜??」

「げ、それだけはまじで勘弁っ!!!」

急いで立ち上がる。
つい、壷林さんのことを考え過ぎてしまった。恥ずかしい。

「えーっと、河野陽奈太です。
…あ、卵焼きが好きなんで、お弁当の方は俺に卵焼きを!!!」

どっっっ…

教室に笑い声が響いたところで、俺は座る。

次は–––––––––––––– 壷林さんの番だ。


「壷林翼です。よろしく」

俺の隣で、丁度いい声の大きさですんなりと終わらせた。



声、初めて聞いた

あ、初対面だし当たり前か。

名前、翼っていうのか。
呼ぶことは、絶対ないだろうけど。



なんか…

「「あったかくなる名前だな」」と思った。



「うっひょー!クールビューティ!」
「俺狙っちゃおうかなー」

男子達の小声で話している声が聞こえる。



まぁ、当たり前だよな
こんな美人さんなんだし。


モヤッとしたようなしてないような––––––––



こんな中途半端な感情に
壷林さんの隣で
振り回される俺だった。