私の不安をあなたが一番知っている

五月、生徒会の立候補者を募った。
独立風紀委員でない生徒は早々に誰に投票するか話していて、立候補する者はいなかった。


元独立風紀委員のほとんどが立候補し、それはみんな予想していた。
しかし生徒が驚いたのは生徒会長の立候補者だ。


副会長立候補者ゼロ。


代わりに、三英傑が生徒会長に立候補、投票で決められることになった。


三英傑の対決に二、三年生は沸き立ち、一年生はその異様な空気に押されていた。


立候補者が発表されるとすぐさま選挙運動が始まった。
朝から昇降口の前に立って挨拶、放送によるアピール、あちこちに貼られるポスター。


そして、秘密の取引。
何も知らない一年生を対象に、力を使って何を望んでいるか読み取った。
表向きは何を望んでいるか当てて、注目されるようにしているだけ。


しかし友達が多い生徒には、俺に投票するよう促して、その結果生徒会長になれなら望んだものをあげる約束をしていた。
しかし手に入れるためあまり強引にやられると困る。選挙の話題になった時、さりげなく言えるよう事前に指導をしていた。


典型的なルール違反だ。
しかし他の候補者も負けず劣らずのことをやっていたことが後でわかった。


他の候補者を熱心に支持する生徒に、ポスターなどを破壊し選挙の妨害をしたという罪を着せ投票権を剥奪。


その頃カメラ付き携帯が普及していたから、友達にジュースを奢った瞬間を撮り、それを証拠に買収していると複数の候補者で責め立てて辞退に追い込むこともあった。友達も必死に弁解したが、受け取ったものも同罪と責められ、ほとぼりが冷めるまで学校に来なくなった。


二つの席を争って、候補者が一人二人と減っていく。
一つの席を争う三英傑はもっと苛烈になっていく。


篤彦は殴られた経験のある元不良を呼び出し、怯える元不良に投票するよう脅した。
ハクは今の現状を憂うふりをして、知り合いの画家に公平な選挙を訴えるポスターを描かせた。そのポスターにはハクに投票するよう呼びかける文字が隠されていた。


そこまでしてなりたいものなのかと疑問に思うかもしれないが、大学入試のときに有利になるかもしれなかったのだ。
それと、篤彦もハクも有名な会社の社長の息子で、親からも何か言われていたようだ。俺の両親は無関心だったが。


そういうプレッシャーや高校生の無駄に高いプライドが混ざり、激しくなった理由は明確に示せない。
俺も、きっと篤彦とハクも、何故こうなったのかよくわかっていない。気付いたらあいつらに負ける訳にはいかないという気持ちだけが残っていた。


そんなことをしていたが、全校集会でのアピールでほぼ結果は決まった。
全校集会は、ここで選挙の結果が決まるとまで言われるほど大事なものだった。


生徒会長立候補者で最後に壇上に立つ。
他のどの候補者よりも望まれる公約だと確信した。


登校時間を今より十分遅くする、長期休みの宿題の量は多すぎると答えを見てしまい、勉強にならないので減らす、体操服での登下校が出来るようにする、などを挙げた。
生徒の望みを読み取り、生徒会長の権限で可能なものを選んだ。


生徒に宿題の量を決める権限はないと思うかもしれないが、進学クラスの生徒が上手くやれば、減らすように心がけてもらうことはできる。
それっぽい研究結果を述べれば、先生は君が言うならそうかもしれないと思う。それほど当時の進学クラスは特別な力を持っていた。


これで終わります、と礼をする。
あのときの一段と大きな拍手は忘れられない。