私の不安をあなたが一番知っている

今日は辰也の声から逃げられるだけでなく、三人と話せるぞ。
鳥籠から出るかのような軽い足取りで家を出て、電車内では大和さんとアプリで話していた。


買ったのはいいけど使うことのなかったスタンプを大放出し、これまでにないほどメッセージを連ねていった。


派手な自動販売機を通り過ぎ、坂を上っていくと、扶桑花学園の札が現れる。
事務室の近くを通る私に、窓から笑顔を見せる事務員さん。会釈してから階段を上る。


「おはよう」


「おはよう……」


坂道で体力を消耗し、少し息が乱れていた。
椅子に腰掛け息を整えていると、三人がお疲れ様ーと言ってくれる。


「駅から来るとしんどいよな」


「うん……私はここの近くに家があるから疲れないけど……学校に宿題を取りに行った後、駅からここまで来た時は死ぬかと思いました」


「マジかー自分の家近くでよかったー」


かかとを椅子の脚にぶつけながら言った。
駅からはきつい、というのが電車で通う子の共通認識になっているらしい。それでも扶桑花に通うという。


「疲れても通いたくなるっていいね。私、今の学校の位置がここだったらそもそも受けようと思ってなかったかも」


「ははは、そうやな。疲れながら好きでもない勉強をしに行くって嫌やしな」


「自分もクソ学校に行こうと思うだけでしんどいのに、立地もクソとなれば絶対行けねえっす」


川芹さんは腹を抱えて笑っているように見せているけど、学校がクソと言いたくなるほど嫌なことがあったんだ。


「扶桑花に行くのはしんどくない?」


「もちろん。最初はだるいって思ったけど、今は行きたいと思えるっす。友達いるし、クソ教師と顔を合わせずに一般教養を身につけられるんで」


「私も最初は怖かったけど、嫌なことのために将来まで捨てなくてよかったと思ってる」


将来を手放しそうになるところから戻ってこれた場所なんだ。
ますますうちに通うことへの不安が加速する。


「そうそう。通うのが嫌じゃない学校ってあったんだと思えた。嫌なことが待ち受ける学校が普通やと思ってたから……扶桑花みたいなところがあるというだけで嬉しかった」


大和さんはここに来るまでのことを語ってくれる。それは、私の想像が追いつかないほどの過去だった。