私の不安をあなたが一番知っている

もはや洗礼、だね。
この後独特のあだ名をつけられる等が待っている。今はあさのんで落ち着いたけど、初期は思意からしいたけときて、たけちゃんと呼ばれた。


さて、可愛い名前と言われた大和さんはどんな道を辿るのか。心の中で試すような苦笑いを浮かべる。
背もたれにもたれ、額に手を当てていると、大和さんについて話す声が聞こえた。


「転校生ってまじか……乙女ちゃん、だってさ」


「乙女?そんな顔してないやろ」


「ひっど。お前そんなこと言うたるなよ」


「なら帰ってきたら乙女ちゃんって呼んであげろよ」


「無理だって。お前がやれよ」


醜い、無責任な押し付け合いが始まる。
お前らに乙女ちゃんなどと呼ばれたくない。
最低な笑い声が頭の中で反響して、不快な目眩が止まらない。


そういう自分のこと棚に上げて顔がどうだとか話すの、大嫌い。
女子の悪口をコソコソと言うような男、本当嫌い。


嫌い、には心の底からの軽蔑をこめていた。
否定するのは苦手だけど、これらだけは嫌いと言い切れる。


どうする?大和さんに聞かれる前に対処する?
よし、無理なら呼ばなくていいし、陰でコソコソ馬鹿にするようなやつの顔などこちらも見たくない、とでも言ってやろう。
そのくらい言ったって怒られないだろう。


席を立って全てをぶちまける数秒前。
しかしその話題は長続きせず、どこの誰かもわからない人の悪口に変わった。


タイミングを逃した……。
今から行っても何言ってたんだとなるだけ……。


大和さんがクラスに馴染んだら、あんなことを言われなくなる可能性もある。
このクラスに可愛い子が一人もいない、と常々言いながら、仲のいい女子と話すときはそれを隠すし、髪型を変えたら可愛いことに気付いたときは可愛いと言う。
あいつらの発言は無責任だ。


私は念のため入り口近くで大和さんを待つ。


「わっ、びっくりした!」


「ごめんごめん。顔色悪かったけど、大丈夫?」


動かない方のドアに持たれていた私を見て驚いていた。私は周囲への警戒を表に出さず、いつものように笑う。


「うん。でも、帰りは寄り道しようかなと思ったけどやめとくわ」


「そうだね。今日は冷やさないよう、ゆっくり休んでね」


体調悪いみたいだぞ、お前も乙女ちゃん大丈夫?て聞いてこいよ。
無理やって。


まだやる気か。
私は即座に睨みつけて牽制する。


何あいつ怖っと怯んで、私たちから目を離し始めた。


こんなやつらのせいでまた学校に行けなくなったら困る。早いうちになんとかしておきたいものだ。