私の不安をあなたが一番知っている

右にはガードレールが続き、左には砂利が広がる。
そして砂利の上にある民家を見つけ、駆け寄った。


「芽、出てない」


こぼれた独り言は広がる寒い空気にあっさり消えていった。
受け止める人がいないと、言ったかもあやふやになるくらいすぐに消えてしまう。


まだ春が来たとは言えないからね。
暦の上ではそうでも、まだ春とは認めない。


次への期待を残して去ろうとした時、ドアが開く音がした。
なんとなく見に来たことを知られたくなくて、どこに隠れようかと右往左往した。
しかし隠れるものもない景色が広がる。


見えないところまで走り去るのも無理がある。
観念して、用は済んだというようなすました顔をして去ることにした。


安芸津さんに向けてしまいそうな視線を無理矢理前に向けようとする。


「芽はまだ出ていないな。来てくれたのに、残念だったな」


低くて、聞き落としそうだった声。それでも私は、確かに拾った。
間近で見なくても出ていないのはわかったらしく、門から少し出たところで立ち尽くしていた。


声をかけたいけど、何と言えばいいのか。
分厚いコートに紺色の着物というちぐはぐな後ろ姿に、どう動くのか問う。


そろりと一歩を出し、乾いた地面と靴が擦れる音がした。
するとしゃがみこんで、なだらかな土を優しく撫でながら、寂しそうな視線を落とした。
大きな手が少しぎこちなく動くところから目が離せなかった。


「どのくらいの深さに埋めましたか?」


「渡してくれた人の言う通り、人差し指の第一関節のところだ」


自分の人差し指を見て、頭の中の土にあけた穴に種を落とした。
そうだ、指の長さは人それぞれだ。もしかしたらくれた人の長さだったのかもしれない。


「種をくれた人の指を基準にしていたってことはありませんか?」


「それはない。確実に、あなたの指と言っていた」


くれた人が種を見せながら説明する様子を思い浮かべた。
女の人の声で再生され、そこでの安芸津さんは頷いて聞いていた。


私の思いつきが違ったということで、残念な気持ちのもやが心を覆った。
これを消したくて、芽が出ない理由をムキになって考えた。


しかし、埋める深さで花の種類が思いつくほど詳しくない。
水を上げる間隔も言われた通りみたいだし、その人の説明が間違っていても、私には訂正できない。


お手上げだ。
負けた気持ちになってスッキリしない。


でも、こんなこと思うのは変かもしれないけど……今日の安芸津さんの優しそうな手を見ていると、可愛いと思って鼓動が速まった。


こんなこと言えないな。
言えないような感情を抱いてしまったことに少し罪悪感を抱く。


もしも読まれていたらどうしよう。焦ってどう弁解すればいいか考えたけど、望んでいることが読めるんだったと思い出す。だから、多分読まれていない。