恐ろしい感覚に襲われなかった皆は雑談しながらすくっと立つ。
私は髪をかきあげ、力が入らない足を慎重に踏み出す。


せっかく暖まっていたのに、教室に戻ると冷えていた。服の下ではひどい鳥肌が立っていた。


頭に熱が集まる。熱を逃がさないため密閉された教室特有の息苦しさ。
早く帰りたい。肘を立てた右手に頭を乗せた。


チャイムが鳴る少し前に段ボール箱を抱えた先生が入ってきた。
騒がしい女子たちがうちの成績どうやった?と詰め寄るけど、先生は目もくれず、自分の目で確かめなさいと段ボール箱を机に乗せる。


段ボール箱からはみ出る青いファイルを見て、思わず顔を引きつらせた。


先生がファイルの名前を読み上げ、次々と渡していく。
真っ先に受け取った私は見る勇気が出なくて、ファイルの真上で頭を抱えていた。


でも見ずに渡すのは危険だよね。成績によって対応が変わるんだから。
ファイルから成績を抜け出し、枠の中の数字に目を通した。


五段階評価で国語が五、他は四と三が続き、数学と体育が二だった。
仕方ない、数学と体育とは相容れない。国語で五を取ったことを褒めて欲しい。


男子ががらついた唸り声を上げる。
これでよく留年しなかったな、と友達に茶化され笑いながら肯定していた。


同じく留年スレスレとされていた女子二人組は抱き合って喜んだ。
様々な声が入り乱れ、混沌としていた。


先生はその後、春休みの注意事項を聞かせるのに苦労していた。
先生が話す前に質問してきて、あとで聞く時間は作るから一旦最後まで聞いてくれ、と机に身を乗り出して手を上下させる。


休みには家に引きこもるので問題行動も起きない。
深夜に家を出るな、とか当たり前のことを聞かされる時間で家に帰りたいと思う。


先生の話は当たり前の話から、二年生に向けての心構えに変わる。
そんな気合の入った二年生になるつもりはない。まさに馬耳東風。


先生が二年生も頑張っていこうと呼びかけても、皆返事しない。
元気がないな、それで大丈夫か?と言うと、女子の一人にうるさいと切り込まれた。
さざ波のような笑いが立ち、うまくまとまったということで、先生が号令をかけるように言った。


バラバラに起立して適当に挨拶を済ませれば、今度はスムーズにカバンを持って帰っていった。


始まる時は遅いけど、帰る時はスムーズで早いのがこの学校の生徒だ。