事務室に着いてから名前を書いてもらい、スリッパを借りる。
学校のスリッパは歩きづらそうで、落ちないようつま先を突き出すようにして歩く。


「職員室はどこですか?」


「職員室はすぐそこ」


私は閉め切られた入り口に向かう。
ドアを開けると、暖かい空気が寄ってきた。


「あの……えっと……」


入ったはいいものの、この子、この調子じゃ要件を言えそうにない。


「先生に用があると思うんだけど……名前、わかる?」


「えっと……札……なんだっけ……?」


札とつくのはうちの担任、札真先生しかいない。


「札真先生」


会話が入り乱れる中でも聞こえるよう、遠くにいる先生にはっきりと名前を飛ばす。


「おう、あ、よく来てくれました。浅野、連れて来てくれてありがとう」


「ありがとうございます」


「あっはい……」


大したことしてないし、恥ずかしくてどういたしましてと言えなかった。
用は済んだと思って職員室を出ようとしたら、先生に呼び止められる。


「大和はもしかしたら、四月からうちのクラスメイトになるかもしれないんだ。時間があったらでいいんだが、一緒に来てくれないか?」


なるほど、名簿順の変更とはそういうことか。荷物の持ち帰りを徹底した理由がわかった。


女子の数は奇数で、私は余りがちだった。
教室での話し相手も少ないし、クラスメイトと上手くいっていないのでは、と心配されることもあった。


大和さん?はおそらく引っ込み思案な子で、私と系統が似ている。
打ち解けてきた途端他の子に乗り換える可能性も低いし、いずれはペアを組む関係になりそうだと思う。


他に予定もないし、ここは残るべきだ。


「はい」


「それじゃ、教室に行こう」


先生が教室の鍵を取った。