電車を待っている間は地図上で、またマラソン大会の道を辿っていた。
来年もこのルートだといいな。今度は倒れないようにしたいな。


もしもあの人が見ていてくれたら、と淡い期待が生まれ、苦しそうな顔は見せず走り抜けたい、なんて思った。
もう心配しなくていいってところを見せたかった。


なんかマラソン大会で倒れた女子として覚えられるのが嫌だし。いつもは健康なのに、一回倒れただけでそんなイメージがつくのは負けた気分になる。
出席日数だけは優秀な私のプライドが、そんなイメージを許さなかった。


気持ちが落ち着かなくて、小説の世界に入り込めない。小説よりも気持ちがたかぶっているんじゃない?いや、それは違う。小説は何が起こるかわからなくてワクワクするし。


結論。これは小説のワクワクとはまた違うものだ。


現実で起きたことでこんなに落ち着かなくなるなんて。
まだこの世界で生きてもいいかなと思えるようになった。


倒れて安芸津さんに会っていなければ、また憂鬱な気分で電車に揺られていただろう。
今日はツイッターを開く気にならなくて、何となく小説を読もうと思った。


コンテストがあるらしく、専用のキーワードで検索すると、応募する作品が並ぶ。
お気に入りの作者さんの作品を見つけたので、これは読まなければと直行した。


主人公は猫が好きで、ある日懐かれていた野良猫が同じ高校の生徒に囲まれているのん見た。
話しかけると、その三人も猫が好きで、その内の一人がこの野良猫を飼いたいと思っていることを知った。
それから猫を迎える準備をして、家で飼うことになった。毎日と言っていいほど集まり、猫を眺める日々だけど、個性的な三人のトラブルに巻き込まれるようにもなって……。


主人公たちの日常を覗いているみたいだ。
大きな展開があるわけではないけど、この四人のことが気になってページを読み進めてしまう。
単調にならず、ここまで読ませるなんて、やっぱり作者さんはすごいと思った。


一言だけの感想を投票し、表紙に戻る。
もっと伸びていいのにと思いながら、PV数の表示を突いた。


そういえば、簡単感想を投票することはあっても、感想を書くことは滅多にない。
感想の伝え方は三種類あって、感動した、ドキドキしたなどの感想に投票するのが簡単感想。自分の言葉で書き込むことができるのは感想ノート。五つまでの星の数で作品を評価するのがレビュー。


簡単感想は投票できても、感想やレビューはあまりしなかった。
語彙力ないし、こんな私が書いた感想やレビューなんて迷惑かもしれないと思ってしまうんだ。


感想やレビューでも、わかりやすく、そして読みたいと思わせてくれるようなのを書く人がいる。そんな人たちがいるんだし、私は別に書かなくても……と引っ込んでいた。


でもこの作品はもっと評価されてほしい。作者さんにすごいって伝えたい。
書こうかな。私は感想ノートを開いて、入力画面を出現させた。