私の不安をあなたが一番知っている

今私の周辺の席は埋まっている。
次は降りる駅だ。アナウンスを聞く前の私と同じように、スマホに熱中する若い女の人。その人の前は足を開いて座る隣のサラリーマン。
二人の膝の隙間を抜けるのは面倒で、どちらかが一緒に降りてくれないかな、なんて思ったりした。


しかし、降りる様子はない。


「すみません」


電車が止まると、軽く頭を下げて、通れるように足をずらしてもらった。


上る人の方が幅が広い階段を上り、ICカード専用がある中、定期も使える改札を探して抜ける。
私もICカードにしたいな。けど五百円取られるんだよね。


五百円を節約したいのと、親にICカードの説明をするのが面倒で磁気式を使い続けている。


なんか親に質問されるのが面倒になってきた。怒られるわけでもないけど、そのことに時間を割かれるのが嫌になった。


親といえば、もうすぐ成績表が渡される。
二学期がものすごく悪かったから、挽回しなきゃと思ってちょっとだけ頑張った。


そう、ものすごく悪かった……十段階評価で八が二つしかなかった。
体育で欠点ギリギリの三を取るのは仕方ないとして、数学の五から四は駄目だ。一番駄目なのはどれ一つ評価が上がっていないことだ。


成績を維持するか、上がるかしか許されていない。
でも受験の時偏差値が低めのところを選んだのは私だ。偏差値だけで見るならその程度の成績は取らなければいけない。


取らなければいけない、と思うと気分が重く沈む。のに結果を出せない自分が嫌になる。


歩いていて足に体重がかかってくる度、こんな私で生きていかなければいけないんだと思う。
こんな体捨てて、何も感じない世界に行きたい。


鏡を見たら映ってしまうこの顔も、上手くいかない頭も、人の気持ちがよくわからない心も……普通に生きていくのが困難だ。
自分が自分であることが嫌だ。


枝から傘に落ちてきた雫の音が、沈んだ考えをかき消した。
目が覚め、ここは大学の付属小学校の近くだ、と気付かされた。


家が迫ってきている。
あまり暗い顔をしていると心配される。


先生から電話がかかってくるまでの時間稼ぎだ。
余韻を台無しにしてしまったことによる不快感を押し退け、顔を上げる。


あのときの気分の延長でお茶を楽しむことはできなさそうだ。