私の不安をあなたが一番知っている

バスは校門前と学校の最寄り駅で生徒を降ろす。
私は定期を片手に最寄り駅で降りた。


他の生徒の集団から離れて歩いていた私は、うっかり集団の背後まで行ってしまわないように、周りを観察していた。
そこでお茶に合いそうなものを見つけた。


羊羹、豆大福、饅頭……派手な色ではないけど目を惹かれた。
お茶の種類によって合うお菓子も変わるのかな?スマホで調べてみる?


しかし私の心にそんな余裕はない。早く家で食べたいし、ここはもう直感で決めるしかない!


「決まりました?」


店員さんに聞かれた。季節限定に弱い私は、雪うさぎの饅頭を選んだ。
ケースの中の饅頭を指差し、二本の指を立てた。


「はい、雪うさぎ二つねー」


店員さんが紙袋に詰めている間に私はお金を用意する。
四百円を渡し、お釣りと紙袋を受け取った。


ゆったりとしたありがとうございますの声を背に、改札に向かう。


改札を抜け、エスカレーターでホームに降りたら、リュックサックの中のスマホと紙袋を交換する。


さて、長編の続きでも読もう。
バスの中で読んでいた長編を開く。


それほど待たずに電車が到着した。
電車は空いていたので座ることができた。


目が疲れてきたので車窓に目を移した。駅の周辺は意外と騒がしい色だと、改めて気付いた。
色がひしめき合っているだけで、楽しいとは思わないけど。派手な色じゃなくてもワクワクさせてくれるものと派手な色でもスルーしてしまうものの違いってなんだろう。


珍しさ?
色が溢れかえった世界に住んでいるから、落ち着いた色が珍しくて興味を惹かれるのかもしれない。反対に、地味な色でまとまった世界にいた人は、この景色も楽しいのかもしれない。


二日くらい見ている世界を取り替えてみたい。
代わりの世界で思い浮かべているのは、あの退屈だと思っていた冬の田舎だった。


何もないところを進めば何かが起きそうだ。
私は何もないところにある、素敵な偶然を忘れられないでいた。