私の不安をあなたが一番知っている

「先生もうすぐ来るかな……」


居たたまれなくなって、車の音も呼び鈴も聞こえてないのに立ち上がった。


「もうすぐ来ると思うが……呼び鈴が鳴るまでゆっくりしていていい。荷物もないし、外に出るまで時間もかからないだろう」


「ですよね」


ゆっくりと腰を下ろした。
先生が来るまで玄関の近くで待つのも退屈だ。けど、先生が来たらここから出ることになる。私はここから出てこの人に会えなくなるのが嫌だった。


「砂壁、久しぶりに見ました。幼い頃は手がキラキラするから、面白がって擦ってましたね……」


ザラザラの壁を擦りたい気持ちを抑え、壁を見つめる。
おじいちゃんに行くとこんな感じの壁があるんだけど、受験が続いたから最近は行けていなかった。


「ああ、私もしたことがあるな。母に見つかると、掃除が面倒だと言われたよ。ちなみにその壁は触ってもキラキラしない」


膝を進め、懐かしそうに壁を見た。
視線の先が重なる。


「ヒビと言えば……私は教室が新校舎にあるからないんですが、旧校舎の方は結構入っているんです。三重のペンキが剥げてコンクリートが剥き出しになっていたり……」


ヒビだけでなく、落書きもある。うちの学校はお世辞にも偏差値が高いとは言えない。濃い化粧の女子がピアスをつけた派手な男子と、人目につくところで抱き合ったりする。


そんなとき、人が通ることわかってるんですか?と思いながら、長いスカートをはためかせて狭い幅を通り抜けていた。


本当場違いだと思う。もうちょっと勉強頑張って他の高校に行けばよかったかもしれない。
けどこの高校の宿題は小学生の頃より楽だ。これを知ってしまうと他の高校の宿題は堪え切れない。


「新校舎か……綺麗だし、今はクーラーが設置されて快適だろうな……」


「いえ、それがですね、クーラーがないんですよ!新校舎に建て替えたところで三年生の分しかお金が残らなかったって!二年の教室に設置される気配はないし、三年までお預けです」


肩を竦めて笑い、大げさに強調して言った。


「そうか、まあこの県は教育にかけられるお金が少ないからな」


この県は工業県で、教育よりも工業の発展にかけるお金が多い。工業が上手くいけばこっちにも回ってくると信じて、暑い校舎で授業を受けていた。