私は気が収まらず、家を出てからも安芸津さんの対応の不満を突いた。
けどいつもの坂道を下りながら、変わらず広がる青空を見ると冷静になる。ちょっときつく当たりすぎたなと、人差し指で頬をかいて反省した。


そもそもなんできつく当たってしまったんだろう。
傷付けずに助けるとか言っておいて、あからさまな態度を取ったり、私もまだまだだ。


次、謝ろう。力強く頷いて決意する。
……丸まった安芸津さんにため息をついたくせに、今から謝りに行けない。意気地なしだ。


そんな自分が嫌で、今から謝りに行くか、と挙げた足を後ろに回そうとする。
いや今から謝るのは……なんかできない。
足を迷わせていると、地面が暗くなったことに気付く。


雲の量が多くなった。
なんか雨が降りそうな予感がする、分厚い雲だ。


雨が降ったら雨宿りすることになるな。
初めて会った時は雨が降っていたし、二回目は雪宿りをしていた。
二つを混ぜたみたいなシチュエーションになにかを感じた。


そうか、もう四月だ。
この春休みももうすぐ終わる。


寂しさを覚えながらも、予想できない未来に胸を踊らせる。乙女がいるし、私も去年と比べて大きく変わった。


ふと目を移すと、向かい側のガードレールに手をかけ景色を眺めるあんらさんがいた。
長い髪とスカートが大きくはためき、青空に伸びる。その様子は今にも飛んでいきそうだった。


傘持ってないし雨降ったらひとたまりもないよね。でも早く帰った方がいいと言うのもお節介か……。


するとあんらさんは髪を押さえ、下る方へ足を動かす。
そのときに私の姿に気付いて手を振ってきた。


「あなたもこの下に?」


「はい。下に駅があるので……」


「私と一緒ですね」


そう言って車が通る気配のない道を渡ってくる。
私たちはそのまま下っていき、このまま駅まで無言でいくのかと思っていると、あんらさんの方から話しだす。


「成人したら会いに行こうと思ってけど、あっちゃんに気付かれたから止められて……五年前くらいにやっと前の家に来たんだけど、あいつはもういないって言われたの」


あっちゃんとは篤彦さんのことかな。
あんらさんが探したその頃は、もう家を移っていた。タイミングが悪いなあ。


「でも根気強く調べて、やっと見つけた。家の前にあった芽は私が渡した種かしら」


「はい。何回目かはわからないのですが、なぜか今まで芽が出なかったらしいんです。今回やっと出て……そう言えば、あれはなんの種なんですか?」


「……金魚草」


整った横顔の唇から、私が予想した通りの花の名前が出てきた。
据わった目をこちらに向けてきて、私はゾッとした。


「それと、ラベンダーとゴデチア」


一変して今にも泣きそうな笑顔。
その二つの花言葉は知らないけど、本当に大事な意味を込めているんだと思う。


胸が締め付けられ、私は選択を迫られる。


ここでやらなきゃ。私は、幸せを祈るんだ。