私の不安をあなたが一番知っている

七月一日、独立風紀委員発表の日が迫っていた。
昼休みに校舎内の見回りをしていたところ、前に躍り出た生徒が紙を差し出してきた。


何だこれはと聞くと、署名ですと答えた。
受け取った署名を見て手が震えた。



生徒会長解任を求める署名だと!?ふざけるな!


怒鳴りつけたが、その生徒はビクともしない。
三十人の名前が書かれた用紙が十枚……三百人が辞めることを望んでいた。


認めろよ。お前の横暴についていけねぇってやつが三百人いるんだよ。


後ろから聞き慣れた声がして、振り返る。
篤彦が久し振りにかけてくれた言葉がそれだった。


こんな署名で辞めさせることなどできない。こんなこと、生徒会の説明のどこにも書いてない。


これから書き足すんだよ。解任を求める署名が二百名以上、そして校長先生の許可があればいつでも解任できるって。


篤彦はそう言いながら、紙で扇いだ。
その横に野次馬を掻き分けて出てきたのはハクだった。


安心してください。次の選挙までの二週間、代わりはいますから。


まさか……!


生徒会長代理は俺がやる。


紙から覗くのは不敵な笑み。これを狙っていたのだ。


遅ればせながら、副会長に就任する羽倉 翔です。


普段からは想像できない、落ち着いた声の挨拶だった。


許可はすぐに取れる。生徒会室の私物をまとめておけ。


俺はあいつの顔も見たくなくて、踵を返しこの場を去ろうとした。
しかし、紙を渡した生徒の向こうには白い壁があるだけだった。


そこで俺は突き当たりに追い詰められていたことに気付く。
そういえばあのときも……体育館裏に追い詰めていた。


事実を認められずに、苛立つあまり篤彦を突き飛ばして通ろうとした。
しかし篤彦は上手くかわし、逆に俺の足首を蹴った。


体を強く打ち付けた俺をこれまでの報いとばかりに笑った。
今までで一番の屈辱だった。


篤彦とハクは一瞬だけ嘲笑うような目で見下した見た後、校長室に行くぞーと声を上げた。


そのときの顔を知っているのは俺だけだ。