「課長、いいなぁ、こんな綺麗な彼女に愛妻
弁当作ってもらえて。
彼女いるなんて、全然言ってなかったじゃ
ないですか?」

「わざわざ言う必要はないだろ。
それより、お前、うるさい。
メシぐらい静かに食え。」

「はーい。」

まったく!
手のかかる部下だ。

「ふふふ。」

俺たちの会話を聞いて、奏が笑っている。

「名前くらいは聞いてもいいですよね?」

池沢が、奏の顔を覗き込んだ。

奏は俺を気にするように見てから、

「橘 奏(たちばな かなで)です。
よろしくお願いします。」

と自己紹介した。

すると、池沢が、

「課長、大変ですね。」

と言い出した。

「何が?」

「だって、こんな綺麗な彼女、いつ他の男に
口説かれるかヒヤヒヤしてないといけない
じゃないですか?」

池沢は、俺の地雷を踏んだ。

「ふん。大丈夫だよ。
お前らには分からない深〜い絆で結ばれてる
からな。」

それは俺の強がりでしかなかった。

奏が弁当箱を片付けると、

「奏、行くぞ。」

と奏の腕を掴んで、立たせた。

奏の腕を引いて歩くと、社員食堂中の注目を集めたが、これで奏が俺のものだと周知されるのは悪い気がしなかった。



俺に彼女ができたという噂は、あっという間に本社内を駆け巡り、俺は頭取である親父から、軽率な行動は慎むよう、厳重注意を受けた。