奏は隣のテーブルに行き、俺に背を向けて座った。
誰だ? そいつ。
「こんばんは。」
奏が挨拶すると、
「こんばんは。」
その男もにっこりと挨拶を返す。
「これは偶然? それとも…?」
奏が戸惑って確認してるからには、そいつが来る事を予期してなかったんだろう。
その男は黙って携帯を見せていた。
何が写っているのかは分からない。
「初めてカナのピアノ聴いた。
俺は音楽とかよく分かんないけど、感動した。」
はぁ!? カナ!?
馴れ馴れしく呼ぶな!
しかも、感動しただと?
奏のピアノはあんなもんじゃねぇよ!
「ありがと。」
「あの後、いろいろ考えたけど、俺はやっぱり
カナを諦められないし、諦めたくない。
遠距離でもいいから、俺が毎週通うから、
やり直そう。
………これ、もう一度、受け取って。」
男は指輪を取り出した。
「これ………
あの時の………」
「そう。
完治したら、またプロポーズし直そうと
思って、大切に持ってた。
カナ、俺と結婚してください。」
俺の目の前でプロポーズとか、あり得ないんだけど!!!
話の流れからすると、こいつが1年前に奏にプロポーズして、奏の誕生日に振ったヤローか?
どの面下げて、奏に復縁迫ってるんだよ。
あぁ! ムカつく!



