優しい音を奏でて…優音side


「奏、酒飲む?」

と聞くと、

「んー、いらないかな?
ゆうくん、飲みたいなら、飲んでいいよ。」

と奏が答えた。

「俺も今日はいいかな?
車だし、今飲んだら、うっかり奏を
襲っちゃいそうだし?」

冗談混じりに言ってみたが、奏が狼狽えてるのが分かる。

まずは奏のお友達感覚を何とかしないと、先には進めない。

俺を雄として認識してもらわないと勝負にならないからなぁ。

「それより、奏、いつからおふくろと連絡
取り合ってんの?」

今日、1番気になってた事を聞いてみる。

「こっち戻ってきてすぐの頃かな?
私が引きこもってたら、お母さんのとこに
遊びに来た葵ちゃんがいろいろ相談に乗って
くれて…。
今の会社も葵ちゃんが紹介してくれたんだよ。」

ん?

「奏、引きこもってたの?
何で?」

「いや、大した事じゃないよ。
いろいろあって、あんまり外に出たくなくて、
家でぐだぐだしてただけだから。」

その時、ふと母の陰謀に思い当たった。

「っ!!
もしかして、マンションもおふくろの紹介?」

「うん。オーナーさんに直接交渉してくれて、
家賃も少し安くしてもらえたんだよ。
葵ちゃんには、感謝してもしきれないよ。」

あのマンションは母の友人がオーナーをしていて、俺も母の紹介で部屋を借りている。

「はぁぁぁぁ…。
俺は孫悟空か?
いつまであの人の手の中で踊らされれば気が
済むんだ?」

「えっ? 孫悟空? 何それ?」

「あぁ、奏は分かんなくていいから。」

「は?」

「さ、食べようぜ!」

職場が同じで、住んでる家も同じ。

絶対、奏を嫁に欲しい母の策略に違いない。

偶然の再会を狙って仕組まれた罠に、俺はまんまと嵌(はめ)められたんだ。

でも、まぁ、お陰で奏と再会できたんだし、感謝してやろう。

そう思うと俺は、ご機嫌で料理をがっつり食べたのだった。