彼女は、俺と目が合った瞬間、目を伏せて駆け出した。

えっ!?
一瞬で嫌われた?

俺は、めちゃくちゃ落ち込んだ。

分かり易く どよ〜んとした空気をまとって、ロビーで待つ母の元へ戻ると、母の隣に見知らぬおばさんがいた。

そして、そのおばさんの背に隠れるように、お姫様が立っていた。

「奏(かなで)、レッスンはどうだった?」

おばさんがお姫様に聞いた。
お姫様は、俺の方をチラリと見てから、

「うん、楽しかったよ。」

と、とても小さな声でおばさんに答えた。


母も俺に気付いた。

「優音(ゆうと)、レッスンどうだった?」

「まあまあ。」

正直、そんな事、俺にはどうでも良かった。
今、気になるのは、このお姫様だけだ。

すると、母が、お姫様に俺を紹介したのだ。
「息子の優音(ゆうと)。
田崎 優音(たさき ゆうと)って言うの。
仲良くしてやってね。」

恥ずかしそうにするお姫様は、何も言わなかったが、コクンと小さく頷いた。

「奏(かなで)、ちゃんとご挨拶しなさい。
優音くん、この子、橘 奏(たちばな かなで)
って言うの。
恥ずかしがり屋で、なかなかお話できないかも
しれないけど、仲良くしてやってね。」