「あ、夕凪君」


ふと思い出した事があって声をかけると、彼は私の方を見て「ん?」と首をかしげた。


「古田先生が、夕凪君に勉強を教えてやってくれって…頼まれたんだけど、いつなら時間空いてる?」


「まぁ〜たあの先生雨野さんに頼みよったんか〜」


そうやって気にしてくれる彼のおかげで、昨日までの心の黒さが少し消えた気がした。


「大丈夫だよ」


「…ほんまか?」


目を細めて私を見つめる彼の瞳があまりにも綺麗で、思わず「つらい」っていう心の内側を吐き出してしまうところだった。


「うん。大丈夫。…ところで、いつならいいかな?」


「……そやな〜…じゃあ朝10分だけ…ええか?」


せっかく屋上にいるのに、10分も勉強に使うのすら惜しい。という彼の姿があまりにも可愛くてクスッと笑ってから「いいよ」と答えた。



「えーっと、ここはこの式に当てはめて…」


「こうか?」


「そうそう。それでここと…」


「うおーー!解けたで!!」


おもちゃを買ってもらえた子供のようにはしゃく彼が面白くてつい笑ってしまった。


「そっちの方がええな」


「うん?…なんて?」


「いや、なんでもないわ!…っていうか俺他の問題も解けてまうかもしれへん!!次や次!!」