大小様々な岩が転がっている場所には、人の気配など感じられない。


(あの車は、もしかして食堂の人の物なのかな)


そんな気がして肩を落とした。
寄るんじゃなかった…と道路を渡りかけた俺の目に、白いキャップを被った人物の横顔が見えた。
手にはカメラを握り、カーキ色のベストを着ている。


(やっぱり、彼女だ!)


嬉しくなって道路を渡りきると、何を撮っているんだろうかと気になった。

そろっと足を忍ばせて背後に近付き、彼女の視線が追っているものを視界に入れる。



(ネコ…?)


トラジマの大きなネコを撮ろうとしているらしい。
背中を丸めてしゃがみ込み、ファインダーを見つめながら「じっとして…」と独り言を喋っている。


(ププッ…)


少し笑い出しそうになる。
誰も見ていないと思っているからなのか、まるで無防備で無邪気だ。


ネコはカシャカシャと連続して発したシャッター音に飛び上がって逃げ出した。
ファインダーから目を離した彼女が「あーあ」と言って立ち上がる。

そのまま振り向いて俺を視界に入れたらしい。