「…先生…?」

私の後ろから聞きなれた

少し低い掠れた声…。

振り向くと、私をじっと見つめる

新井くんが立っていた。

「……新井くん。」

新井くんは、10代の若者らしく

黒いパンツに少しダボッとした

白いTシャツでスポーティーな服装だ。

パンツの裾が短めなのって

今、流行りなんだ…?

その上にオーバーサイズの

ダメージ加工されたデニムのジャケットを

たすき掛けするように羽織っていた。

足元を見ると、いつもは制服だから

ローファーだけど

今日は、カジュアルな黒のスニーカー

を履いていた。

なんか…さすが10代…服装が若いなぁ。

「…先生?」

「あ、ごめんね…待たせて。」

「いや、俺も今きたばっかだから。」

そう言って彼は私の顔を嬉しそうに見る…。

今来たとか言って…嘘ばっかり。

そんな新井くんが少し可笑しくて…

思わず吹き出してしまう。

「…ぷっ……。」

「……えっ?何?」

「ううん、何でもない……

じゃあ、行こうかっ。」

そう言って私が映画のチケットを買おうと

チケット売り場に行こうとすると

「……あっ、大丈夫…俺、もう買ったから。」

「……え」

彼は、私が観たいと言っていた

映画のチケットを差し出した。

「…え…あ、ありがとう…

じゃあ、お金、渡すね。」

そう言って私がバッグの中から財布を

出そうとすると

「…いや、大丈夫、これは俺が出すから。」

新井くんはそう言って、ドリンク売り場に

向かって歩いて行ってしまう。

「…え、新井くんっ。」

私も新井くんの後を急いで追いかけた。

そんな…困るよっ。

生徒に奢らすわけにはいかない。

いや、私の方が年上だし

社会人だし。

彼は、未成年だし

色々とまずいでしょっ。

うん、私が出さないと……。