「平野先生……っ

ありがとうございます!」

私が深々と頭を下げると

いつもの平野先生に戻っていた。

「いえいえ…

私は学年主任として

当然の仕事をしているだけですよ。

生徒を守ってやるのが……

教師の務めですから。」

そう言った平野先生の瞳が

どこか悲しそうに見えた。

「あの、平野先生…

聞いてもいいですか?」

「…はい…何ですか?」

「新井くんは、昔からあんなにケンカを

していたんですか?」

「……いや…私が知ってる新井は

真面目に空手に打ち込むヤツでね。

子供の頃からずっと空手一筋で、いつかは

道場を継ぎたいって言ってたなぁ……。

ずっと頑張ってたんですよ。

実は……

新井の親父さんは私とは古い友人でね。

だから、小さな時から光を知っててね…。」

平野先生は、懐かしそうに

少し目を細めて笑っていた。

「……じゃあ、何で…

やめてしまったんですか?」

「…色々とね……。

親父さんを亡くしてから…

それから…

すべてがおかしくなってしまった。

…何もかも、彼は一人で

背負っていこうとしたんだ。

幼い兄弟の為に…

まだ…16歳だったんですよ。

それなのに…全部、背負い込んで。

……苦しかったろうになぁ…。

私は…彼の力になってやれなかった。

何もしてやれなかった…。

光が、空手をしなくなったのも

その頃ですかね……。」

平野先生は、そう言って下を向いた。

もしかして……

お母さんがいなくなったのと

何か関係があるのかな…。

「あの…新井くんのお母さんは…どこに?」

「そ…それが…

私にもわからないんです。

新井に聞いても答えなかった。

ただ、もう…

自分が兄弟の面倒を見るとしか…

すみません…

私も自分が情けないんですよ。」

平野先生は、それ以上何も言わなかった。

「あ、あの…ラグビー部の生徒達の

ケガ大丈夫ですかね?」

もし、ケガがひどかったら新井くん…

本当に、退学にならないよね?