「あのさ…紗和…。」

「…うん?」

「結婚したらさ…

仕事、辞めてくれないか?」

「…えっ。」

仕事…辞める…。

「今すぐとかじゃないよ、実は…

上海の支社に転勤の話があって…

近いうちに行かないとならないかも

しれないんだ…っ。」

「えっ…上海?それって…。」

「うん…栄転。

多分…2年くらいは帰ってこれない。

でも帰って来たら希望している

部署に配属してもらえる。」

「え…す、すごいよ。おめでとう…っ。」

「…うん。」

「……勝平、よかったね。」

勝平、ずっと仕事頑張ってたもんなぁ…。

うまくいってよかった…。

「紗和…一緒についてきてくれないか?」

えっ…一緒に…?

勝平は私の左手を握りしめた。

一緒に上海…に行く?

あぁ……そうか…

結婚するんだから…そうだよね…。

「…うん、わかった。」

「良かった…やっと言えたぁ…

ずっと、言えなかったから…。

紗和にも仕事があるって思ったらさ…。

でもこの前、新しいクラスが大変って話を

聞いてから…言ってもいいかなって…。」

「え…あっ、そうなんだ。」

そう言えば、ちょっと勝平に相談した事

あったような…。

「紗和…仕事が辛そうだったからさぁ…

これで解放してやれるっ。」

「…え」

解放…って?

私…そんな風に言っちゃったのかな…。

確かに、今年のクラスは大変な生徒とか

いるけど…。

でも…

私なりにずっと頑張ってきた仕事だし

辞めたいとは思ってなかった…。

「紗和、デザートどれにする?」

勝平は、私の気持ちとは反対に

満面の笑顔で私にメニュー表を見せる。

「…あっ、うん…。」

私…仕事、辞めなきゃならないんだ。

結婚するんだから

それも…仕方ないのかな…。

そうだよ…ね。