「…あっ……」

私は、とっさに物陰に隠れてしまった。

…何で、隠れてるんだろっ…?

…だって、まだ心の準備が…

だからって隠れるなんて…

一人で自問自答している私…。

これじゃあ…まるで、高校生…じゃん。

こんな事してるのを新井くんに知られたら…

は、恥ずかしい……っっ。

挙動不審で、まるで不審者…。

そんな自分に呆れながら…

通りすぎた新井くんの姿を少し離れた

場所からこっそり見つめた。

新井くんは、白いTシャツに

赤みがかったブラウンのシャツを

羽織っていた。

グレーの裾が短めのパンツ…と

黒のハイカットのブーツ。

今日の彼は、いつもより大人ぽい…

「新井くん…なんか…オシャレじゃない?

私、この服で大丈夫かな?」

彼と並んで歩いてもおかしくないか

一瞬…不安になる。

急いで、その場を離れると

化粧室に入った。

髪を整えて、化粧を直して

もう一度、鏡に全身を映す。

胸元が少し開いた薄ピンクの

シフォン素材のブラウス…

二の腕が太く見えないように

腕の方がヒラヒラしている。

そのブラウスをハイウエストの

ベージュのロングスカートに軽くインして

足元は黒いサンダル。

手には、ナチュラル素材のカゴバッグ…。

「…もっと、可愛い系の方がよかったかな…

ちょっと…地味っていうか…

オバサンぽい?」

暑くて今日は髪をアップにしていた。

もう一度、髪を直しに鏡を見る。

「…よし…大丈夫…落ち着こう。」

チャラン……

スマホに新井くんからメッセージが届いた。

"今、どこらへん?"

「え…もうこんな時間…っ!?」

どれだけ、鏡の前で考えてたんだろっっ。

気付いたら、すでに11時15分だった。

急いで、化粧室を出て駅の外まで走る…。

「…はぁ…はぁはぁ…」

噴水広場の前には何人もの人が待っていた。

そんな大勢の中でも…

私はすぐに彼を見つけた…。

新井くんはスマホを見ていて

私が近づいているのに気付いてない。

遠くから見た彼はやっぱり、若くて…

キラキラしていた。

彼の前を通る女の子達が何人も

振り返っている…。

新井くん…何か目立ってる…

今、声かけて大丈夫かな…。

どうしようか迷いながらノロノロと

歩いていると…

ちょうど新井くんがスマホから目を離して

辺りを見回した瞬間、彼と目が合った。

新井くんが笑いながら大きく手を

振っている。

あんなに嬉しそうに手を振って…

彼の無邪気さが私の胸をチクリと刺した。

よしっっ…。

覚悟を決めて急いで彼に近づいていく。

「……遅くなって…ごめんなさいっ…」

なぜか緊張して上手く言葉が

出てこない。

そんな私を見て、彼は

大きく息を吸い込んで吐き出した…。

「…はぁ~よかったぁ…。」

そう言って私の顔を笑って見つめた。

「…え、よかった…?」

「もしかして、事故にあったのかなって

思ったから…

それか…来てくれないのかなって…

心配になってた…。」

そう言ってもう一度、深々と息を吐いて

私を優しい顔で見つめていた。

「………………」

私…自分の事しか考えてない…。

「…紗和?」

新井くんが心配そうに私の顔を覗き込む。

その瞳が、いつもと変わらず優しくて

余計に、自分が恥ずかしくなる…。

私は、彼の顔が見れずにうつ向いて

自己嫌悪に陥っていた。

その時…

グイッ……急に手を引かれる。

え……?!

「…じゃ、行こうかっ!」

彼は私の手を握りしめて歩き出した。

「……新井くん?」

「…あっ!

紗和っ…今日、ロングスカートだ。」

「………え…」

「…この前のワンピも可愛いかった…

けどっ…。」

けど…?

「あ…ごめん…

何か今日、おばさんぽいよね…。」

そう私がポツリと言った時…

「…ハハ…何で、謝るの?

大人っぽいの間違いだろ?」

彼は、私の手をギュッと握った。

「……え?」

「…紗和は、いつも可愛いよ?

どんな服だろうと可愛い…。

それに今日のブラウス…レースで

超可愛いじゃん…女子って感じ…。」

こんなに褒められるなんて

思ってもみかなった……。

照れくさいけど…素直にうれしい。

…ありがとう。

「…ありがとう……」

彼を見上げると目と目が合って

その瞳一杯に私が映る事がうれしい…。

「来てくれてありがとう…。」