「これは花束には程遠いけど…

いつか紗和に両手いっぱいの花束を

プレゼントするから…

その時は、紗和が好きなチューリップ…

そしたらさ…笑って受け取ってくれる?」

「……え」

「……俺だけに…可愛く笑ってくれる?」

ドキン、ドキン……

胸の鼓動が激しくなっていく。

…今…この瞬間…あなたにだけに…

とびきり可愛く笑ったら…どうする?

「………………」

「…紗和?」

トン……

すべての色々な考えが…

真っ白になっていく…。

その瞬間私は…

何も考えずに、ただ彼の胸の中に

飛び込んでいた。

「…私は…10歳も上なんだよ…?

すぐに…年とっちゃうし…

だから、きっとすぐ嫌になる…よ?」

今までずっと思ってた不安を

吐き出すように言ってしまった…。

こんな事…

高校生の男の子に言ってどうするの?

私、相当に…どうかしちゃってる。

それも…彼は私の生徒。

本当にあり得ない事…。

「嫌にならない…

俺にとって紗和はずっと特別だから…

おばちゃんになっても

おばあちゃんになっても可愛いよ…。」

「…何それ…バカ…」

それなのに…止めることができない。

「今…俺が紗和の事…

好きでいるのを許してくれたから…

俺も許すよ…おばあちゃんの紗和でも許す。

だから、ずっと可愛いく笑ってくれる?

そんな紗和が俺の隣にいてくれたら…

それだけで…もう何もいらないから。」

彼はまるで幼い子どもを安心させるような

優しい声で話す。

これじゃ…どちらが年上なのかわからない…。

でも…

素直になりたい…

可愛いって思われたい…。

「……笑う…ずっと…可愛く笑う。」

私は、彼に聞こえる声でそっと呟いた。

「うん…」

ギュッ……

その呟きを聞いて彼は私の背中に手を回し

優しく何度もゆっくり力を込めて

抱きしめた。

何度も、確認するかのように…。

「…なんか…夢みたいなんだけど…。」

ポツリと彼は呟いた。

その声はいつもより掠れていて

フッと笑いそうになる。

「……ずっと大切にするから…。」

そう言うと彼はまたゆっくりと

私を抱きしめた。

ギュッと抱きしめられた彼の胸の中で

もう何も考える事ができなかった。

ただ……

胸がドキドキして…

ずっと…このままでいられたら

いいのに…

ただ、それだけを思っていた。

私も…あなたが好き…

会うたびに、あなたが好きになる。

会うたびに…

好きになっていく。

ずっと…触れていたくなる。