"にゃ~"

「……紅っっ??!」

違う……。

「こんな所にいるわけないか……

はぁ……」

思わず、大きなため息がでた。

あの日…

荷物を取りにアパートに戻ってみると

紅がいなくなっていた。

たぶん、窓が開けっ放しになっていた

所から逃げてしまったんだと思う。

私のアパートから日向子のアパートは

最寄り駅から4駅…。

たぶん…

そんなに広範囲は移動しないと思うけど。

「…どこにいっちゃったのかな……。」

今日、帰りにアパートに寄ってみよう…。

…心配なのに、まだアパートに

帰る勇気がない。

「…情けない…。」

だけど、あの日の勝平を思い出すと

急に不安な気持ちに押し潰されそうになる。

こんなんじゃ…ダメだっっ!

気持ちを振りきるように

足早に、駅に急いで歩き出す。



キーン、コーン、カーン、コーン

よしっっ!頑張ろっ!!

気持ちを切り替え、教室に入る。

「…あっ」

教室に入ってすぐに、窓際の席に座っている

新井くんが視界に飛び込んでくる。

彼は、私がプレゼントした眼鏡をしていた。

あれって…この前の…だ。

そう思った瞬間…目が合う。

ドキンッ

えっ…前髪…なんか少し短くなった?

…切ったの?

あの日から…

日に日に罪悪感が増していき…

半端なく苦しくなっていた。

もう、彼との向き合い方がわからなくて

避けてしまっていた…。

避けるなんて、中学生みたいだし

悪いとは思っていたけれど…

彼の刺さるような視線を無視し続けていた。

初めてだ…

こんなに瞳がはっきり見えたのは…

あの眼鏡、使ってくれたんだね…

前髪が短いの、よく似合ってる。

なんだか爽やかすぎて…

キラキラしてて…新井くんが眩しいよ。

やっぱ…彼は若いんだな。

そんなの今更なんだけど。

こういう時…嫌でも思い知らされる…。

…私と彼じゃ…釣り合わないってわかる。

ふと、刺すような視線に気がつくと

…彼は眼鏡を外して私の顔をじっと

見つめていた。

ドクン…

瞳がキレイすぎて見るのが辛い…。

…って言うか…

新井くん…何でそんなに見てるの?

見つめられて、頬が熱くなる。

こんな状況を誰にも知られたくなくて

必死になって、平静を装う。

ドキンッ、ドキン……

その時…

ドキドキしていて周りを

見ている余裕がなかったけれど

クラスの女子達が

新井くんの変化に色めきだって

ざわめいていた事を後から知った。

「…お、おはようございますっ!

ホームルーム始めるよっ。」

私は、必死で気持ちを隠すために

わざとらしいほどに

澄ました顔でホームルームを始めた。