いつの間にか私は

彼の顔を見つめていた。

運命だなんて……

こんなセリフを恥ずかし気もなく

真面目に言っちゃうなんて…

若いって…やっぱスゴいな…。

"運命"……

"全力で守る"…

そんな不確かな事なんて信じてない。

でも、ずっと私が欲しかった物だった。

今までの彼の言葉…

その全てが私の中で

ゆっくり溶けて身体中に染み込んで

いくような感覚だった。

…初めてだった、こんな気持ち。

おとぎ話の中の事みたい…

現実はきっと違うってわかってるけど。

でも…彼の言うとおり

もしも運命ってのがあるなら…

それは、きっと…

いまだに鳴りやまないこの胸の高鳴り…。

この胸の音が"それ"なのかも。

絶対の確証はないし…。

ハッピーエンドなんかじゃない。

だけど……

振り返らずにいられなかった。

たとえ、彼が私の生徒だと

わかっていても…。

教師…失格になってしまっても…。

「…運命なんて…信じない。」

そう言って彼の方に近づいていく。

「…今はそれでもいよ。」

後…20センチ近づけば

彼の顔がもっとよく見えるけど

これ以上は、近づいてはいけない気がする。

「……紗和…っ。」

「…何?」

グイッ

彼は私の腕を自分の方に

引き寄せ残りの20センチを0センチにする。

その瞬間…

色々な物に囚われた私を

連れ出してくれた気がした…。