「あ、そうだ!…これ…持ってたんだ。

新井くんのジャケット…

返そうと思って忘れちゃってて…

私…これ、着るから!」

そう言ってジャケットを彼に見せると

「…ああ、じゃあ丁度いいじゃん。」

彼は、そのジャケットも私の肩に掛けた。

「…え、ダメだよ!それだと新井くんが…

Tシャツ一枚なんだから…。」

慌てて新井くんのスエットを

返そうとすると彼は私の手を掴んだ。

「本当に…大丈夫だから…。

全部…着ててよ。

俺…先生のそんな格好…

誰にも見せたくないから……。」

急に、真面目な声…

私の胸がドキッと波をうつ。

「あ、ありがとう…ごめんね」

私がゆっくりと新井くんを見ると

「あ…

パーカー、似合うじゃん…可愛い…

ジャケットからフード出してみっ。」

そう言って、ジャケットの上に

フードを出しながら

彼は、いつものように笑っている。

その表情で、ずっと張り詰めていた物が

切れてしまった。

「……からかわないでっ。」

不覚にもそう言うのが精一杯だった。

そう言って溢れてくる涙を隠すように

下を向いた。

そんな私の頭の上で…

彼は少し掠れた低い声で優しく笑う…。

その笑い声にまた涙が溢れてくる。

ズキン……

胸が苦しくなっていく。

ダメ…平常心を保ってっ!

「…紗和…?…」

そんな私を彼は優しい声で呼ぶ。

え……

……紗和って…呼んだ?

紗和……

もう…呼ばれないって思ったのに…。

何で…?

どうしようもなく…胸が騒がしくなる。

「…紗和じゃなくて…先生って

呼ばないとダメでしょっ?

何で名前で呼んで…っ…えっ…」

涙を見せないように下を向いたままの

私の顔を彼の両手が包み込んだ。

ドキンッッッッ……!!

えっ…っ!

な、な、な、な、何……っっ!

……っっ…!

彼は私の事を熱を帯びた眼差しで

見つめていた。

そんな彼の表情に声が出なくなっていた。

「…だって俺にとっては…紗和…だよ。」

「……っっ…」