私の目から熱い涙が溢れてくる……。

「……じゃあ、何なんだよっっ!」

勝平が私の腕を羽交い締めにして

押さえつける。

「い、痛い…勝平…止めて……。」

「なら…誰にやられたのか言えよ…っ。」

勝平が私の腕をさらに強く締め付ける。

本当の事を言ったら、勝平は私を

許してくれるの?

私を信じてくれる…の?

こんな風に私を押さえ付けるあなたに

私の気持ちなんてわかるわけない。

「痛い…わ…私は…本当に……」

本当に…勝平が大切だったのに…。

信じてほしかったのに…。

どうして…?

勝平は…私が好きになったあなたは

こんな事をする人じゃなかった…。

「…やめて…勝平……痛い。」

涙が次から次に溢れて止まらない。

「……ウッ……」

感情が声にならない嗚咽となっていく。

「……ウッ…ウッ……」

ガタンッッッ!

勝平は急に私の腕を離すと

起き上がって勢いよくソファに腰かけ

乱れた髪をかきあげて深いため息をついた。

「はぁ…泣けば済むと思ってるだろ?

そうすれば、男は許すって…

俺は、そんなんで…

誤魔化されないからなっ…

お前は…隙がありすぎるんだよっ!

だから…あんなガキに漬け込まれて

バカじゃねーの?」

勝平が冷ややかな声で私を捻った。

勝平がこんな事を言うなんて…

「…あ…私…そんなつもり…」

私は、恐怖で声がうまく出ない。

そんな私を遮るように彼は、続けた。

「何だよ…言いたい事、言えよ…

俺も開放したんだから…

夫婦になるんだから、言いたい事

言っといた方がいいだろ?

紗和はさぁ…

今までの俺をどう思ってた?

いつも冷静で取り乱さなくて…

嫉妬なんかしなくて

優等生の物わかりが良い奴?

それで嘘ついても笑って許してくれる

チョロい奴…っっ?」

勝平の声が急に震えだした。

「……っ??!」

起き上がって勝平の顔を見上げると

彼の頬に涙が伝っている…

勝平のこんな顔を見たのは…

付き合って初めてだった。

彼のその瞳から次から次に

大粒の涙が溢れてきていた…。

勝平…。

「…俺が…どんなに紗和を思ってきたか…

ずっと大事にしてきたのに…。」

そう言って勝平はじっと私を

見つめている。

「俺はずっと紗和だけを見ていた。

だから…今もこれからもずっと…

俺には紗和だけなんだよ…っ」

「…勝平…」

私…なんだ。

私が…

彼をこんな風に変えてしまったんだ。

勝平の事、深く傷つけてしまった…。

これは苦しんでいる勝平のSOSなんだ。

泣いてる彼を見て…胸が苦しくなっていく。

彼のそばにいないとならない。

彼をこんな風にした責任を…

その瞬間…

床に落ちているブルーのジャケットが

目に入った。

新井くんのジャケット…だ。

"誰かにどう思われるかじゃない…

自分が自分をどう思うのかが

大切なんだ。"

彼が言っていた言葉が頭を過っていく。

真っ直ぐで嘘がなくて…

いつも、正直な人。

彼と一緒にいると

自分に正直になれた気がした。

そんな自分が好きだったんだ。

ただ、素直に嬉しいなんて思えた事が

嬉しかった。

勝平は、私をずっとずっと

愛してくれた。

かっこよくて、優しくて…

ずっと憧れてた人…私の自慢の彼…

私は彼を大切にしないといけなかったのに。