「そう。たった一枚しかもっていないママの写真を破いて燃やされちゃったんだもん。怒って当然でしょう~?」

「ハァ……。今回は、示談金を払えば解決しそうだからいいもののこれ以上はかばいきれないからな」

「かばいきれない?」

「カンナだって知っているだろう。僕の立場を。それを考えたうえで節度ある行動を心がけてくれ」

パパの他人行儀な言葉に呆れを通り越して笑いが込み上げてくる。

「節度ある行動?」

ママが苦しいときに優しい言葉一つかけてあげることもなく、責めたのは誰?

ママが苦しい時、他の女と不倫してたのは?

その女との間に子供までつくっていたのは一体誰?

「そうだ。カンナが幸せに生きていくためのレールは僕がきちんと敷いてあげている。そのレールから反れない生き方をしてくれ」

「……分かった。パパがそう言うならそうする。でも、その代り――」

「なんだ。パパには何でも言ってごらん?欲しい物なら何でも買ってあげよう」

「ママを返して。ママともう一度会えるなら、他には何もいらない」

沈黙の時間が続く。根負けしたのはパパだった。

「とにかく、もうこういうことはやめてくれ。分かったね」

パパは諦めたように言うと、床に置いていたバッグを掴んだ。

「……こんな夜遅くから、また仕事?」

「パパは忙しいんだよ」

パパはそう言うと、玄関から出て行った。

カーテンの隙間から外を見る。門扉の前にはハザードをつけたハイヤーが止まっている。

パパが後部座席に乗り込んだ。奥に座っていた派手な女がパパの腕に自分の腕を絡ませる。

パパが笑っている。幸せそうに。

「女遊びで忙しいなんて大変だね、パパ」

車が動き出す。赤いテールランプは闇の中に消えていく。

しんっと静まり返った広い部屋の中、目をつぶって必死にママの面影を探した。