イジメ返し3

そのとき、美波の家の北側の家から誰かが出てきた。

50代と思われるガリガリにやせ細った女性。白髪まみれの髪の毛を一つに束ねて背中を丸めながら歩く女性は里子の母親だろう。

そばにいるカンナや桃ちゃんに視線を向けることなく、ただ地面に視線を這わせて歩くその姿に胸の奥が痛む。

12年経った今も、美波とその両親は他人を傷つけていた。

自分の子供に先立たれる辛さ。

イジメられている娘を助けてあげられなかった後悔の念はきっといつまでたっても拭うことなどできない。

きっと死ぬまでその辛さも悲しみも消えないだろう。

イジメは本人だけでなく、周りの人間をも傷付けて苦しめる。

イジメている加害者はきっとそこまで深く考えていないだろう。

けれど、イジメはたった3文字で言い表してはいけないくらい卑劣で悪質で外道な行為だ。

イジメを苦に自分の手で命を絶った娘。

親は子供が苦しんでいる姿を見れば、無条件で助けてあげたいと思うはずだ。

毎朝、どんな気持ちで里子ちゃんを送り出していたんだろう。

両親の気持ちを想うと胸が張り裂けそうになる。

きっと助けたかったに違いない。

どうにかして助けてあげたい、何か方法はないか、そう思っていた矢先に里子ちゃんは命を絶った。

里子ちゃんの両親の苦痛は想像もできない。

「人から奪ってばっかりの人は奪われることに慣れてないからねぇ」

美波の家を見上げる。

「え?」

――今度は奪われる側をカンナが経験させてあげる。

「ううん!何でもない~!」

スマホの画面を見ると、16時30分を過ぎていた。

「桃ちゃん、ごめん。ちょっとカンナ行くところがあるから。また明日学校でね!」

「あっ、うん」

桃ちゃんに手を振って駆け出す。

横目に里子ちゃんの家を見る。

「大丈夫だよ、里子ちゃん。カンナがアイツらやり返してあげるから」

里子ちゃんと、里子ちゃんの家族が感じた苦痛も悲しみも絶望も。

全てアイツらに返してやる。

イジメ返ししてあげるからねぇ。

呟いた声は通り過ぎていく車のエンジン音にかき消された。