「あの一家が家を買ってからすぐにおかしなことが始まったんだ。家の庭にゴミが散乱していたり、家内が植えた花が踏みつぶされていたり。最初はあまり気にしていなかった。でも、早朝に大きな音で音楽をかけたり、夜中に大勢の仲間と庭でバーベキューをやって騒いだり……。そんな日が続いたんだ。だから、一度だけもう少し静かにしてもらえませんか、とお願いに行った。そうしたら……」

おじさんは唇をぐっと噛んだ。

安西一家と関わったことで、里子ちゃん一家が追い込まれていくさまがすぐに目に浮かんだ。

注意をされて逆上し、自分が悪いことをしているのにそれを相手のせいにして責め立てる方法をあの一家はよく使う。

まともな人間にはさっぱりわからない脳の仕組みをしているらしい。

話が通じないのだ。何を言っても信じられない思考の転換をしてそれを理由に責め立ててくる。

筋が通っているような話し方をするけれど、全く筋など通っていない。

それを指摘されれば、今度は大声を出して威嚇して、身代わりを用意して脅して恐怖心を煽ってくる。

「安西の家の周りの家は彼らに嫌がらせされてすぐに越していった。住宅ローンを抱えて借金を背負ってでも、彼らから逃げたかったんだと思う。でも、僕たちは里子の為に我慢したんだ。里子は中学でたくさんの友達ができて楽しいと毎日笑顔で学校に行っていたから。でも、その選択のせいで里子が……」

おじさんの目から涙が溢れる。子を亡くした両親の苦しみは計り知れない。