西園寺カンナサイド

【昨日、午後6時頃●●市のアパートの一室に押し入った男が女子高生が暴行する事件が発生しました。なお、男は現在も逃走中。付近には小中学校もあることから警察は見回りを強化するなど警戒を強めています】

スマホの画面に映し出されているネットニュースを一通り読み終えたタイミングで、注文していたミルクティーがやってきた。

「ありがとうございま~す!」

頭を下げてウエイトレスさんにお礼を言うと、ゴクゴクと喉を鳴らして冷えたミルクティーを喉の奥に流しこむ。

「うーん、今回もなかなかうまくいったなぁ~」

ニコニコしながら独り言をつぶやく。

砂羽ちゃんは今頃どうしているかな?総合病院?それとも、精神病院?

ボロボロになっている砂羽ちゃんの姿が容易に想像できる。

親がまともに働かず、ひもじい思いや惨めな思いをしてきた砂羽ちゃんにとってSNSは現実逃避するために必要だったんだろう。

SNSの世界でだけ違う自分を演じる。そのアカウントの中でだけは理想のキラキラと輝ける自分になり、承認欲求が満たされたに違いない。

まあ、カンナにはそんなのどうだっていいことだけどっ。

でも、砂羽ちゃんだってきっと今回のことで分かってくれただろう。

SNSの危険性を。そして、人を簡単に傷付けてしまうことを。

自分が軽い気持ちで投稿したものが一気に拡散され、挙句の果てに自分の首を絞めてしまう。

全部、因果応報なのだ。

「さてと。消しちゃおっと。もう砂羽ちゃんにはこんなものいらないもんね~」

スマホを操作して砂羽のSNSのページを開き、ログインする。

【退会する】

迷うことなくそのボタンを押すと、きれいさっぱり砂羽のアカウントは消え失せた。

砂羽のSNSは店から万引きしたバッグや人から奪い取ったお金で作り上げた偽りの世界だ。

これを機に改心してくれるといいんだけど。

って、砂羽ちゃん、ごめんねぇ。裏アカのほうはIDもパスワードも突き止められなかったし、突き止める気もないからそのままにしておくね。

軽トラックのおじさんを変態呼ばわりしたのは砂羽ちゃんだもん。

おじさんへの名誉棄損とそのせいで生じた会社への損賠賠償もちゃーんっと責任を取らないとね。

両親の生活保護の不正受給も大問題になってるみたいだし、砂羽ちゃんだけじゃなくて一家全員がこれから前途多難だねぇ。

ホント、お気の毒。

でも、それはぜーんぶ自分たちが蒔いた種なんだからねぇ~!


「――あの……」

声をかけられて顔をあげると、やつれた顔の男女が立っていた。

「初めまして~。西園寺カンナです!急にお呼び出ししてすみません」

カンナは自分の前の席に座るように促した。

二人は小さくうなずくとそれに従った。