西園寺カンナside

「ねぇ、聞いた?渡辺翔平の話」

「聞いた聞いた!お母さん殺したのって渡辺君なの?」

「どうなんだろうね。でもさ、彼ならやりかねないと思わない?みんなに暴力振るって弱い子からお金巻き上げてたんでしょ?」

「マジ?最悪だよね。でも学校辞めるだろうし、平和になるね」

「うん!でもさぁ、こんな事件がなくても、もう学校に来るのは無理だったんじゃない?だって生物室での話……知ってるでしょ?」

「知ってる!高校生にもなってヤバくない~?あたしだったら恥ずかしすぎて学校行けないし!」

カンナの横を通り過ぎていく女子生徒たちが翔平君の会話に花を咲かせている。

翔平君の家のことはニュースにもなった。

母親が何者かに刺殺され、部屋の中にいた翔平君は警察で事情を聴かれているらしい。

別れた父親の行方も分かっていないらしく警察は重要参考人として行方を追っていると今朝のニュースで流れていた。

校内は翔平君の話でもちきりだ。

「翔平君のママ……いい人だったのになぁ」

今朝、人を使い翔平君の家のポストに写真入りの封筒とIcレコーダーを入れ、その様子を監視してもらった。

翔平君のママがその存在に気付いたのは、お昼前。翔平君にアパートで殴られたすぐあとのこと。

あの日、朝一で翔平君のママは会社で翔平君が行った一連の悪事を知ったはずだ。

昨日の夜、夢原製菓の常務のパソコンに息子がお金を恐喝されている場面の動画や音声を添付ファイルで送りつけておいた。

自分と同じ職場にいる人の息子に、立場が上の自分の息子が恐喝され、暴力まで振るわれていたと知って黙っているはずがない。

それを知らされて翔平君のママは肩を落として家に戻った。

ICレコーダーを聞いた翔平君のママは自分の息子がしていたことを認めたうえで、行動に出た。

リサイクルショップへ出向き、貴金属やスマホを売りに出していたらしい。

巻き上げたお金を少しでも被害者に返そうとしていたことがうかがえる。

翔平君のママはまともな考えを持っていた。

何故か心の中がどんよりと重たくなる。